切削条件最適化コラム

エンドミル突出し長(L/D)の重要性

近年のエンドミル切削加工の高精度化の潮流として、エンドミル工具のびびり抑制の取り組みがあります。

”切削キャッチャー”においても、エンドミル工具系のびびり振動解析モジュールを備えており、本モジュールを活用することで、エンドミルの強制振動抑制を強力にサポートします。

このびびり振動解析は、”切削キャッチャー”の大きな強みの1つとなっていますが、実際のところ、工具系のびびり振動解析には、工学的に複雑な問題を含んでおり、なかなか解析的に予測するのが難しいことも事実です。

 

しかし、ここ私が述べたいのは、そのような複雑な事象の解説ではありません。もっと根本的な事に改めて言及しておきたいと思います。 つまり、エンドミル工具のびびり振動の抑制の基本的アプローチは、エンドミル剛性を高めることに尽きるという当たり前のことを強調したいのです。すなわち、工具ホルダー剛性を高めると共に、エンドミル突出し長をなるべく短くする。そのために十分な努力を払うことが何よりも重要なのです。もっと具体的には、エンドミル工具系の静的たわみ量を最小化するということに尽きると言っても良いでしょう。そんな事は当たり前ではないかと思われるかもしれませんが、実際のもの造り現場を見渡すと、エンドミル工具の突出し長を極力短くするという対策が十分施されている現場はかなり少数派だと感じます。

 

実際、「大は小を兼ねる」ならぬ「長は短を兼ねる」という考えの下、エンドミル工具を必要以上に長い突出しで加工している現場がたくさんあります。 次のような事例がありました。あるお客様のエンドミル切削条件最適化を実施した時のことです。

私は、粗取り工程のエンドミル工具径を小さく(径14mm)すると共に、その工具の突出し長を60mmまで短くすることを提案しました。事実、CAMシステムでのツールパス生成の方法を工夫すれば、エンドミル工具の突出し長を60mmまで短くしても、干渉が生じないことが確認できていました。

また、そうすることで、加工効率が10倍程度になることがわかったためです。そうしたところ、先方からの返事は予想外のものでした。「径14mmのエンドミルの突出し長は、125mmとなっております。

突出しを125mmとして、再計算してください」というものでした。(125mmって誰が決めたの?、それはなぜ変えられないの??突出し60mmと125mmの違いって雲泥の差以上に決定的に違うのですよ!、、、と思わずにはいられませんでした)あるいは、エンドミル工具(径14mm)に対して、切削キャッチャーを用いた切削条件最適化を実施したところ、最適刃数が6枚刃という結果が出たのですが、これに対して、「うちのエンドミル工具(径14mm)の刃数は、2枚刃です。2枚刃前提で、エンドミル切削条件最適化を行ってください。」といったこともしばしば言われます。

まあ、一口に、工具仕様を変えるといっても、煩雑な作業が伴うことはわかります。

 

例えば、エンドミルの突出し長を変える場合にも、いちいち、ツールホルダーからエンドミル工具を取り出し、突出しを変えて、セッティングし直し、工具長の測長を実施するという作業は、意外と手間がかかります。そんな手間を考えると、多少工具の突出し長が長くても、その分、エンドミル加工条件(その典型例が、送り速度を落とす)を調整して、ゆっくり加工すればよいと思ってしまうのも人間の嵯峨なのかもしれません。

 

しかし、このような考えは本質的に誤りであると断言したいのです。

第一に、エンドミルの突出しを長くするというマイナスの要素は、加工品質にダイレクトに影響します。金属切削でもっとも重要な加工面品位の低下に直結しているのです。この点、作業の煩雑性などと天秤にかけるような代物ではないのです。

第二に、工具の突出しを長くすると、3次関数的に切削加工の不確実性が増大します。さらに、エンドミルの突出しを長くしたことに対する不確実性の増大は、加工条件を微調整することでは取り除くことができません。先ほどの例で言うと、エンドミル切削加工において、”突出しを長くする”と”送り速度を落とす”という2つの施策には直接的な強い因果関係はないと言ってもよいのです。(実際、送り速度低下⇒切削力の低減⇒静的たわみ量の減少、という関係は存在しますが、、)語弊を恐れずに言うと、先ほどの作業者は”送り速度を落とす”ことでなんとなく安全になった気がしているだけではないでしょうか。

 

ここでは詳細なエンドミル切削現象や理論モデル等の論考は省きますが、結局のところ、”突出しを長くする”ことによるエンドミル切削現象の不安定性増大は、”突出しを短くする”ということでしか解決することができません。 そういう意味で、”エンドミル突出し長を最小限にする”という施策を怠ると、その時点で、最適切削条件には辿りつけないことになってしまうのです。

 

結論としては、工具やホルダー干渉が生じない範囲で、エンドミルの突出しは、極力短く保つという考えを徹底することが、加工時間の削減、加工品位の向上には極めて重要です。